季節の山エッセイ
夏の山稜
雨が上がり、さわやかな空が現れている。
初めは空のほんの一部に青空が顔を出しただけだったが、場所を移すにしたがって、次第にその領分が拡がり、いつのまにか頭上の空はすっかり青く輝いている。
昨夜、夜行に乗ったときには、このような天候の回復など思ってもみないことだった。 駅までの夜道を、どしゃ降りの雨の中を私は傘をさしながら、足もとや肩の荷物も濡れそぼっていた。
明け方に下り立った駅のホームでも、まだ雨は残っていた。それが、バスの終点から歩き出して一時間ほどで雨は上がり、さらに一時間ほど歩いたところで、空は夏の青い輝きを取りもどしていた。
私は二度目の休憩をとろうと、登山道の傍らの木の根っこに身体を休めた。 まだ地面は乾ききっていなくて、腰を下ろした所も湿り気を帯びている。樹々の梢も水滴を含み、あたりには朝の涼気がただよっている。
登山道を歩き出してから、しきりに小鳥たちのさえずりが聞こえていたが、今も、どの樹々からか、その鳴き声が絶えない。 私は荷物の中から水筒を取り出すと、冷たい水を喉に流しこみながら、樹間の小鳥の声に耳をかたむけていた。ちょうど私が休んでいる場所からは、樹々の梢の切れ間に山稜が現れている。 おそらく明日かあさってには、稜線上をたどっていることだろうその山容のところどころに、白い雲がかかり、陽はまぶしく当たっているのが見える。
その山並みを見やりながら、私の胸は徐々に昂ってくる。 私は荷物を背負うと、また歩き出した。
やがて長く続いた樹林帯を抜けて、登山道は灌木の斜面をたどる。 太陽は燦々と陽を降りそそいで、緑の斜面は明るく輝いている。
程なく私は稜線に出たが、そこからは四方の眺望が開け、山並みが折り重なり際限なく続いている。
雲が流れ沸き立ち、山は青く、白く輝いている。ここはもう、3000メートルの天上の世界だ。流れる雲も風も光も、天上のそれだ。


